第12話

彼女が入院して2週間が経った。



しかし彼女はよくなるどころかだんだんと弱っていくのが目に見えて分かった。



入院して3日間は面会に行くと連絡をするとロビーにまで迎えに来てくれた。




1週間が経つとベッドに座り、笑顔で俺を迎え入れてくれた。




しかし2週間が経った今、彼女はぐったりとベッドに横たわり、俺が眠っている彼女に声をかけなければ俺が病室に入ってきたことにも気が付かない。



「先生、秋さんは…」



夕方の回診に来た医者は難しい顔をして首を左右にふった。




「この病気はまだ研究段階でね、発症原因も分かっていないんだよ」




「じゃあ今処方されてる薬は?」



「症状が緩和された症例の多いものを使っている。患者の体質によって違うんだけど、10年近く同じ薬が通用する患者もいれば、数年ごとに薬のレベルを上げないといけない患者もいる」



「秋さんは…」



「おそらく後者だね、だけどこの子はもう処方出来る薬の中でも一番強いものを使ってしまっているから…」



「てことは、秋さんはもう薬を変えたくても変えられないってことですか?」



青い顔をして俯く俺に、医者は「それか…新薬を試すか…」と苦い顔をする。




「新薬…?」



医者の言葉に俺が期待の意味を込めて顔を上げると、いつの間にか医者の横には桐也がいて、悲しい顔で首を左右にふっていた。




(なんだ…?)



桐也の行動の意味が分からず、俺は怪訝な顔をしてしまう。




「もし、もしこのまま同じ薬を使い続けたとして、秋さんは回復するんでしょうか?」



「それもなんとも…時間をかけて徐々に回復する可能もあるし、数年間に渡って悪くなる場合もあるから…」




「そんな…良くなると思って入院を薦めたのに…こんなことになるなんて…俺…間違ってたんですか…?」




「君は間違ってなんかないよ、2週間前からこの兆候はあった。だから私も療養を薦めた。こればかりは誰にも予想出来なかったよ」




涙ぐむ俺に医者は軽く肩を叩き、病室を出て行った。




ベッドで眠る彼女の横で俺と桐也だけが取り残された。



桐也は相変わらず何も言わず、彼女に寄り添って微笑んでいる。




「新薬を試せば……」



(回復するかもしれない…)




俺が心の中で呟くと、桐也は微笑みから一転して急に立ち上がり、険しい顔で激しく首をふった。




初めて見る桐也の厳しい表情に俺は驚いたが、そんな事よりも俺は桐也に言いたいことがあった。



「さっきからなんなんだよそれ!!死んでる癖に口出ししてくんじゃねーよ!!このままじゃ秋さんが危ないかもしれないんだぞ!?」



怒鳴る俺に桐也は表情を変えず、尚も首を左右にふる。




「てめぇ…!」



「んん…からちゃん?…怒ってるの…?」



俺が更に桐也を怒鳴りつけようとした時、彼女が目を覚まし、のそりとベッドから体を起こした。



「あ、秋さん…ごめん、起こしちゃったね」



「ううん、最近ずっと眠くて…薬の副作用だと思うんだけど…。それよりからちゃん、今日も来てくれてありがとう。でもこんなに毎日来てくれなくても良いんだよ?」



「え?どうしてそんなこと言うの?俺は秋さんに会いたいから来てるのに…」



「ふへへ、ありがとう。からちゃん学校もバイトもあるし、大変かなって思って。それに私、最近こんなだし」



「そんなこと言わないでよ、絶対良くなるよ。早く一緒に家に帰ろう?」



俺がそう言って彼女の手を握ると、桐也はうんうんと頷きながらスっと虚空へと溶けていった。

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