第9話

俺が悶々と考え込んでいると、ふと視界に栗色の髪をした物腰の柔らかな男が正面に現れたかと思うと、次に俺の後ろから彼女の声がした。



「お待たせしました、アイスコーヒーでございます」



「どうもありがとうございます」



笑い交じりに接客の真似事をする彼女に、俺もつい釣られて笑ってしまう。



そんな俺達を見てか、それともその顔しか出来ないのか、俺の正面に座った桐也も相変わらずニコニコと微笑んでいる。




(やっぱ俺とはタイプ違うよなあ…)




普段接客などしない癖に、ふざけてキャバクラごっこを続ける彼女をあしらいながら俺はチラリと桐也に視線をずらす。



俺と違っていかにもモテそうな物腰の柔らかな雰囲気を醸し出している少し薄めの茶色の瞳に、栗色に染められた髪。




背は少し俺の方が高いが、日本人の平均身長より高そうだ。




声こそ聞いた事はないが、きっと優しい声で彼女の名前を呼んでいたのだろう。




『秋』



「!?」




何も言わないはずの桐也の口から一番聞きたくない声が聞こえてきた気がして、思わず俺は彼女の前でフリーズしてしまった。




「からちゃん、どうしたの?」




首を傾げながら小さく、ふっくらとした手でぺちっと俺の頬に触れる彼女。




「な、んでもない」




(なに想像してんだ、今秋さんの彼氏は俺なのに)

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