第8話

「8本……」



「おかえり秋さん」



「血、とられた」



「そうね、よく頑張ったね」



「ドールコーヒー行く!( ´ ᾥ` )」



「その前に受付に行かないと」



「〜〜〜!!」



なんとか彼女を病院へと連れて来た俺は、採血を終えた彼女と合流し、受診科へと向かっていた。



行き交う人のほとんどがお年寄りばかりで、明らかに若い俺達2人は一々視線を集めてしまう。



(なんだろこのアウェイ感…)



俺が居心地の悪さを感じていると、彼女が慣れた様に一瞬で受付を済ませ、俺の手をひいて1階にあるコーヒーショップへと速歩で歩き出す。



「からちゃん速く速く!」



「え、なんでそんなに急ぐの?」



「いいから速く!」



彼女に急かされながら辿り着いたコーヒーショップの入口には新作の広告ポスターがデカデカと貼られており、俺は納得した。



(新作飲みたかったのか)



営業開始してまだ間もないはずの店内には既に多数の利用客がおり、病棟とは違い、付き添いでやって来たのか母親と幼い子供の姿や30代くらいの夫婦の姿もあり、女性の方のお腹はふっくらと膨らんでいるのが分かる。



(いいな…俺も秋さんと…)



幸せそうに母子手帳を2人で眺める夫婦の姿を眺めながら無意識にそんなことを考えてしまった自分にハッとし、俺はその思考をかき消すようにかぶりを降った。



「からちゃんこっち」



前方からふと彼女の声がし、顔を上げると、そこには桐也の隣でニコニコと微笑みながら既に席に座っている彼女の姿があった。




(まあ…付いてこないはずないか…)



さっきまではなかったはずの桐也の姿に俺はため息をつく。




(全然2人きりになれない…)



「からちゃん何飲む?」



「俺は…アイスコーヒーかな」



メニューを見ながら一番飲めそうな無難なものを口にすると、彼女は顔に梅干しの様な不思議なしわを寄せて「あいすこ〜ひ〜?」と舌を出した。




「子供がそんな苦いもの飲めるわけないでしょ!カッコつけないでロイヤルミルクティーにしなさい!」



「え、いや俺甘いの得意じゃないし…」



「ええええ!?でもこの間ミセスドーナツ一緒に食べたじゃん!」




「あー、あの時はミートパイだったから」




「あ、そっか」



先日のデートの話になり、彼女が斜め上の虚空を仰ぎながら納得したように拳で手のひらを打った。



「じゃあ、買ってくる!からちゃんは席守ってて」




「俺が行くよ、秋さんが座ってて」



「わたしゃまだ介護される歳じゃないよ!」



「いや別に年寄り扱いしてる訳じゃないけど…」



「じゃあ、この秋さんに任して子供は座ってなさい」



見るからに使い古しているハイブランドの財布だけをカバンから取り出し、無邪気な笑顔でレジカウンターへと走っていく彼女。



そんな彼女のすぐ後ろを足音もなく桐也がついて行ってしまう。



(俺は子供扱いか…)




俺は大学四年生の22歳で秋さんは27歳の社会人だ。



夜職は給与も良いらしく、秋さんの住むマンションはセキュリティも部屋も広い。



バイトで月10万稼げれば良い方だと思ってしまう俺とは経済力も違う。



(そりゃあ子供にしか見えないか…)

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