第7話
「秋さん、おはよう」
「…………おはよう」
平日の朝7時。
俺は目を閉じたままダイニングテーブルに座る彼女の前に軽い朝ごはんを運んだ。
「…ご飯いらない…」
不機嫌そうに口をとがらせて目を擦る彼女に俺は自然と笑みが溢れる。
(可愛いなあ)
幼い顔立ちのせいでダダを捏ねられると、学校に行きたくない女子高生にしか見えない。
「食べないとダメだよ、病院の待ち時間長いんだから、すぐお腹すいちゃうよ」
「んん〜…病院も行かない…」
「ダメ、病院は行くの」
「でもまだ薬あるし、来週でも大丈夫だよ」
「薬は余ってるんじゃなくて、秋さんが飲むのサボってるからでしょ!それも含めて俺が先生に話すから!」
「いや!( ´ ᾥ` )」
ぎゅむっと顔に不思議なしわを寄せて反抗する彼女。
そんな彼女の隣でニコニコと微笑む元彼の幽霊、桐也。
桐也が見えるようになってから俺は彼女の住むこのマンションに住み始めた。
(俺が幽霊に嫉妬してるなんて秋さんが知ったらどんな反応するんだろ…)
彼女に桐也は見えていない、それだけが俺への救いだった。
亡くなった人に対してこんなことを思うのは罰当たりかもしれないが、俺はただ彼女のそばにいて愛おしげに彼女を見つめ続ける桐也に勝てる自信がなかった。
もし彼女にも桐也が見えるようになってしまったら…そう考えただけで俺は焦りで頭が真っ白になってしまう。
(きっと秋さんにもこの人が見えたら喜ぶんだろうな…)
死別して10年…その年月の彼女の苦しみは俺にははかれない。
10年という年数以上に、俺は彼女が抱くこの桐也という男への想いを知るのが怖かった。
そしてこの桐也という男が今突然現れたのではなく、もっとずっと前…10年前からこうして彼女のそばにいたのだろうかと考えると更に嫉妬でおかしくなってしまいそうだった。
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