第5話
「えっとね、この人…随分前に付き合ってた人で…」
「随分前…?今もなんじゃないの?」
「違うの、お願い聞いて」
"前に付き合っていた"
その言葉は予想するまでもなく分かりきっていた解答だった。
にも関わらず、俺の心は嫉妬で黒く燃え上がっていた。
だってそうじゃないか、
今もこうして家にあげて、俺のいぬ間にベッドで2人…"元"だとかなんだとかは関係ない。
やっぱり彼女は俺のものにはなってくれないのか、そう現実を叩き付けられたのだ。
「秋さん…俺にだって聞かなくても分かるよ…この状況だったら流石に」
俺がそう言うと、彼女は「ほんとう?」と再び大きな瞳で見上げてくる。
俺を見つめるその瞳には何故か大量の涙が詰まっており、うるうると潤んでいる。
(そんな顔…ズルすぎる…)
まるで捨てられた子犬の様な表情をする彼女を、俺は堪らず抱き締めた。
隣には彼女の本命と思われる男がいるにも関わらず。
俺は確かに彼女に幻滅していた。
なのに、心が彼女に囚われてまるでゾンビの様に貪欲に彼女を求めてしまうのだ。
こんなにも黒く、強烈な嫉妬心を激しく燃え上がらせているのに、こうして彼女を抱き締めていると彼女が男を連れ込んでいた事実も何故か仕方のないことのように思えてきてしまう。
(俺の倫理観どうかしてる…)
そう自分を内心で嘲笑った時、彼女が顔を上げ、その形の良い唇を震わせながら言った。
「この人、亡くなったの」
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