第6話

(楽園…?こんな場所が?)



ゲートを抜けると、そこは黒く腐敗した土が広がり、ありとあらゆる方向から奇声や悲鳴が響き渡っていた。



そして一番驚いたのは、ゲートを抜ける前は人の形を保っていた隣人が、ゲートを抜けた瞬間、まるでヘドロの塊のような、灰色と黒に斑に色を変え、異臭を放つ謎の物体へと変容してしまったことだ。



よく周りを見渡すと、まるでスラム街の様なぞんざいな作りのテントや建物が軒を連ねる街中は、同じ様に姿が醜く変容してしまった化け物達で溢れていた。



空は薄暗く、見上げるとまるで微かに炎を灯したように赤いが、けして眺めていて心の安らぐ風景ではない。



(こんなところに水蓮がいるはずない…)



橡は、水蓮の姿を思い浮かべながらぼんやりと足任せに歩いていると、ふと通り過ぎた屋台の中に、人の形を保った存在を横目に捉えた。



「!」



橡は、その存在をもう一度確認しようと、屋台の前で足を止め、振り返ると、汚らしい屋台のボロ椅子に座った人物もまた、こちらを見つめていた。



色白のシャープな輪郭に、狐のように細くつり上がった目、そして意味深に上がった口角からはきっと誰が見ても胡散臭さを感じてしまうだろう。



(…男の人?かな?綺麗な人だけど…なんだろう…凄い胡散臭い…キツネ顔って言うのかな…)




橡は今までここまで精巧な作りの顔をした人間を見たことがなかった為、ついまじまじとキツネ顔の男を見つめてしまった。



そんな橡に、キツネ顔の男はニタリと笑みを浮かべると、とうとう席から立ち上がった。

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