第3話
「いないって何故です!?じ、じゃあ父さんと母さんは!?」
「あなたの妹さんはここには入れなかったようです。ご両親に関しては、あなたが"誰を"ご両親として言い表しているのか分からないので、なんとも言えません」
白い人物は、余りに平然と、そして淡々と橡に告げ、そんな白い人物に橡は頭に血が上るのを感じた。
「なんで水蓮は入れなかった!?分からない!?分からないだと!?お前ら天使に分からないことが、俺に分かるわけないだろ!!誰だ誰だとさっきからうるさいが、お前ら天使こそ誰なんだ!?俺達は一人一人容姿が違う!見分けようと思えば見分けられるはずだ!だけどお前らがそうしようとしないだけだろ!?ここの管理人を気取るくせに、全てにおいて詰めが甘いんだよ!!俺達人間を一括りにして管理しようなんて最初からお前らには無理なんだよ!!」
「…………………………」
橡は腹の中で溜め込んでいた鬱憤を全て吐き出した後、しまったと手で口を覆った。
しかし、確かに「しまった」という罪悪感はあるものの、橡自身には既に数秒前に自分が発した言葉や事柄全てを忘れていた。
しかし、そんな橡に白い人物は特に反論もせず、目も無いマネキンの様な顔でこちらをジッと観察するように見つめている。
「………水蓮はどこにいる?ここに居ないならどこに?」
「この楽園の外に」
「ここからはどうやったら出られる?」
「出ることは許されない、輪廻に還りなさい」
白い人物は橡を諭すように厳しいようで、しかし温かい声を出して橡の頬を撫でた。
しかし、橡の頬に触れた手は無機質で冷たくも無かったが、温かみも感じられなかった。
「俺をここから出せ」
「出てどうするのです?」
「妹を連れて戻る」
橡の言葉に、白い人物が初めて眉間を動かした。
白く、輪郭と鼻筋しかないはずのその顔が何故か悲しみを称えていることだけは橡にも分かった。
そして白い人物は「出来ません」と首を左右に振って、再び橡に触れようとした。
が、橡はそれを察し、1歩後ろへと下がった。
「じゃあ戻れなくても良い!俺は妹を探しに行く。ここから出せ!」
「それは出来ません、あなたと妹は違うのです」
「何が違う!?家族だ!」
「あなたの幸福はあなたの妹の幸福ではない」
「そんなのお前に分かってたまるか!俺の幸せは俺が決めるし、水蓮の幸せは水蓮自身が決める!」
橡はそう言い放ち、白い人物を押し退けて走り出した。
しかし広大な麦畑はどこまでも続き、橡は一度足を止めた。
「はあ…はあ…」
息を切らしながら一瞬自分の足下に視線を落として、次に顔を上げた時、そこにはさっき押し退けて来たはずの白い人物が立っていた。
「なっ…なんで…」
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