第23話
あの日以来、姉が誰かの送迎で帰ってくることも、手土産を持って帰ってくることもなくなった。
そして父が外泊する回数も何故か少なくなっていった。
今考えてみれば恐ろしいことだ。
父は、姉が引き寄せる周りの人間を男であろうが女であろうが許さなかったのだ。
そして最終的には自らの娘である姉を"女"として貪っていたのだ。
そうだ、今日ついにその標的が私に回ってきただけの話。
私は姉の代わり、姉はきっと母か、他の女の代わりだったのだろう。
あの日、姉の悲鳴を無視した臆病で残酷な私に、姉に救いを求める資格などあるはずがない。
そう自覚した途端、私の体からスッと一瞬にして父を拒む力が抜けていった。
父の体を押して遠ざけようとしていた私の腕がだらんと放り投げられたのを見た父は厭らしく目を細めた。
しかしその瞬間、何かが通り過ぎたかと思うと、ほんの数秒前までついていた父の頭部が吹き飛び、激しい血しぶきが舞った。
「えぇ……?」
自分の上に馬乗りになっていた父の体は、頭部を失い、ソファの下へとドサリと崩れ落ちていく。
状況が飲み込めない私は、父の飛び散らせた血を浴びながら体を震わせた。
するとすぐに私の腹部にドスんと丸々とした一頭身のぬいぐるみの姿の姉が飛び乗ってきた。
「ほのか大丈夫?」
「お姉ちゃん…?」
「うん、お姉ちゃんだよ」
姉は漆黒の瞳で私を見つめ、血だらけになったまん丸の顔で私に擦り寄ってきた。
「もう大丈夫だよ、ほのかに酷いことする奴はお姉ちゃんが食べてあげるからね」
姉の香りと、くぐもった優しい姉の声に、私は緊張がプツリと切れ、姉を抱きしめて泣き喚いた。
「お姉ちゃあぁ〜ん!!アイツ…!!私に!!私を…!!体…触って…!!汚い汚い汚い穢い!!やだよォ…怖いよぉ…お姉ちゃん…」
泣きじゃくる私の頭を、姉は短い前足で撫で、「大丈夫、もう居ないよ。ほのかは綺麗だよ、何も奪われてない、大丈夫大丈夫」と囁き続けていた。
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