第20話
「ケーキいらないって言ったのに…」
言いながら秋人の手からトレーを受け取る私に、秋人は「イシシ」と笑いながら「いいから食えよ」と私の向かいに座る。
こうしてコーヒーショップにいる間は、秋人がスマホで私にSNSを見せながら、今流行っている動画や芸能人などの話を聞かせてくれる。
私の家にももちろんテレビはあるが、私が自由に番組を見ることは出来ない為、世間の情報に触れられるのはこうして秋人やクラスメイトと話ている時くらいだ。
笑い合いながら2人で肩をよせ、スマホを見ていると、ふと秋人の方が何かに気が付いたようで、スマホから顔を上げた。
「…………」
「どうしたの?」
私が秋人の顔を見ると、秋人は怪訝そうな顔で何処か離れた方を見ながら「なんかアイツ、ずっとこっち見てきてやがる」と眉を寄せた。
秋人の言葉に私は何気なく振り返ったが、その瞬間とてつもなく後悔した。
「あ………お、と…おさん…」
私と秋人の席からはだいぶ離れているが、そこには紛れもなく、私の父がカッチリとしたスーツを着こなし、神経質そうに眉間に皺を寄せ、じっとりとコチラを睨みつけていた。
その視線に射貫かれた私は、恐怖で息が止まった。
そして目の前が真っ白になり、椅子から雪崩落ちる。
視界は何も映さないのに、口からはせっかく食べたケーキを吐き出していて、その食べ物を吐き出す感覚だけはハッキリと分かった。
「!?和田!?大丈夫か!?」
真っ白な頭と視界の中で、遠くから私を呼ぶ秋人の声が聞こえ、私は眼球だけを動かして必死に彼を探すが、
とうとうプツリと電源が切られたように意識を失った。
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