第13話
テスト最終日、昼過ぎに帰宅した私は、父のいぬ間にリビングで姉とまったり過ごしていた。
「ほのか、りょうり上手くなったね!」
「ふふ、ありがとう。ネットで調べたレシピなんだけど、凄い簡単だったよ!」
「そうなんだ、すごいおいしいよ!」
姉は縫い付けられているはずの口で料理を次々に平らげていく。
姉はいつもお腹を空かせているようだった。
食べなくても生きていけるが、「食べたい」という欲求はあるようで、たまに冷蔵庫の中身を全て食い尽くされてしまう程だ。
「そういえば、ほのかの学校は何月に文化祭?」
「文化祭…?ああ…どうだったかな…多分秋じゃないかな。どうして?」
「お姉ちゃんも行きたいなって思って」
「そっか…でもずっと一緒にはいれないし…」
私が少し困った顔をすると、姉は体を揺らしながら明るく「無理なのはわかってるよ、大丈夫」と笑った。
「なにかお土産買ってくるね。たこ焼きとか、好きでしょ?」
「すきぃ〜!」
短い藍色の前足をあげ、無邪気に喜ぶ姉を、私は堪らず抱き締めた。
どんなに父に暴力を振るわれても、家に帰る度に緊張で体が震えても、こうして姉と過ごすことが出来るなら我慢できた。
「ふふ、私お姉ちゃんが居ればもう誰もいらない…」
私の言葉に、姉は「それはお姉ちゃんもだよ…」とくぐもった声を出したが、すぐに体を離した。
「?お姉ちゃん…?」
離れていった姉を不思議そうに見つめる私を、姉は刺繍された漆黒の瞳でじっと見つめ返してくる。
「お姉ちゃんには、ほのかしかいないけど、ほのかにはこれから他の誰かが必要だと思う」
「え…?」
その姉の言葉は、今まで私が積み上げてきたものを全て消し飛ばす程の威力と衝撃を私に与えた。
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