第11話
それから、多和田秋人は度々私に話しかけてくるようになった。
人気者が隣に居るというだけで、普段透明人間のごとく目立たない私が、急に色を持ち、周りに認識される感覚がとても不快に感じた。
そしてテスト期間、部活が活動休止期間に入ったこともあり、下校時秋人が声をかけてきた。
「和田、一緒に帰ろう〜」
「嫌だ、ついてこないで」
拒否する私の傍らに秋人は尚もピッタリとくっついて笑う。
「俺のこと嫌い?でも見てたじゃん、今日の体育の時も、美術の時も」
「みっ、見てない…!自信過剰過ぎ!」
「ハハッ、和田ってさ頭良いよね。勉強教えてくれない?」
「はあ?なんで急にそんな話になるの?それに別に頭良くないし」
「でもいつも上位じゃん」
「お姉ちゃんに…教わってるから…」
私が俯いてそう言うと、秋人が「お姉さんがいるんだ?」と私の顔を覗き込んだ。
秋人のぱっちりとした目と目が合った瞬間、私は咄嗟に口を手で抑えた。
まるで取り返しのつかない失態を犯してしまったような罪悪感が私の胸にザワザワと広がる。
誰にも心を開いてはいけない、
誰の手も取ってはいけない、
頭の中でその言葉が延々と回り巡り、気が付いた時には秋人を振り切って走り出していた。
そして家へと辿り着き、バタバタと2階の自室へと駆け上がる。
扉を開いて、ベッド上からぶにゅりとこちらを振り返る姉に飛び付いた。
「うわっ、…どうしたの?ほのか…」
ふっくらとした姉の体を抱き締めた私は、泣きながら姉の匂いを必死で嗅ぎ、荒い息を整えようと深呼吸を繰り返した。
そんな私を姉は短い藍色の前足で私の脇腹をさすり、何も言わなかった。
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