第8話

「ほのか、ちゅうがっこうたのしい?」



「うん、楽しいよ。部活は入れないけど、友達も出来たし」



「よかった」



姉が死んでから7年、私は中学生になった。



父は相変わらず私に暴力を振るうが、姉の存在が私の支えとなっていた。



姉は、父が私に暴力をふるう度に激怒し、「ほのかがのぞむなら、あいつをいますぐにたべてあげる」と三角の耳を尖らせた。




姉の言う"食べる"という言葉の意味を私は理解していなかったが、私はその度に「大丈夫、私は大丈夫だから」と首を横にふった。



生前の姉には手を差し伸べてくれる存在などいなかった、



むしろ姉は、幼い私を庇い続けてくれたのだ。



それなのに、私だけが誰かに助けて貰おうなどと考えてはいけないのだ。



「私はお姉ちゃんが傍に居てくれるだけで良いの。お姉ちゃんありがとう」




姉の丸い体を抱き締め、微笑む私に、姉は「ずっとそばにいるよ」と短い藍色の前足をそっと私の体に添える。



姉は、もう私を抱き締めることは出来ない。



私は、もう姉の腕に包まれることはない。



これからは私が、姉を抱き締め、これからずっと守り抜いていけば良いのだ。

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