第5話

「お姉ちゃん…」



「なに?」



姉に優しく抱き締められながら私は小さな声を出した。



「お父さんなんていなければ良かったのにね…」



「………そうだね」



「いつか、気が付いたらどっかに消えてたりとかしないかな?」



「………してたらいいのにね」



姉は私の言葉に一瞬だけ体を固くしたので、私はてっきり怒られてしまうと思ったのだが、姉の口から出たのはいずれも肯定の言葉だった。



「…お母さんも、お父さんが怖いから帰って来ないのかな?」



「そうかもしれないね」



「わたし、お姉ちゃんと二人が良いな…。お母さんも、お父さんも要らない。お姉ちゃんとずっと一緒に居たい」




柔らかい姉の胸に顔を埋め、ギュッと服を掴む私を、姉は「そうだね、ずっと一緒だからね」と優しく私の頭を撫でた。




柔らかく、温かい姉の体に包まれ、私の瞼はどんどんと重くなり、とうとう開かなくなった。








翌日、私が目を覚ますと、そこには既に姉の姿はなかった。




「!?」



私は咄嗟に母の居なくなった日のことを思い出し、慌てて階段を駆け下りて、玄関の姉の靴を確認し、リビングへと駆け込んだ。




「あ、穂乃香おはよう。お父さん、明日の朝に帰って来るって。今のうちに録り溜めしてたアニメ、一緒に見よう?」




「あ…うん…」



「?どうしたの?変な夢でも見た?」



「あっ、別に…ただ、起きたらお姉ちゃんが居なかったから…」



「穂乃香は甘えん坊だなぁ〜ふふふっ、今日は休みだから起こさなかっただけだよ」



「そうだよね…」



姉の言葉に、私はなんだか安心しきれなくて、後ろから姉に抱きついた。



「どうしたの?本当に赤ちゃんに戻っちゃった?」



「お姉ちゃんがずっと一緒に居てくれるなら、赤ちゃんに戻る…」



ぐりぐりと顔を姉の腰に押し付ける私に、姉は大きな声で笑った。



「赤ちゃんじゃなくても一緒にいるよ、大丈夫!昨日も言ったでしょ、ずっと一緒だよって。ふふ」



「……うん、そうだよね」

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