第3話

玄関の扉を開けると、すぐに父の怒声が響き、ドスドスという足音がこちらへと近付いてくるのが分かった。



「穂乃香、はやく」



姉は私の持っていた買い物袋を取り上げ、肩を叩いて2階へと上がるように促してくる。



私は一瞬迷ったが、リビングの扉のくもりガラス越しに、近付いてくる人影を見て、恐怖に負けた私はそのまま一人で2階の部屋へと駆け上がってしまった。




そしてその日、私は一人布団に潜り込みながら、一日中、姉の悲鳴と父の怒鳴り声を聞き続けたのだ。



「お姉ちゃん…」



深夜になり、酒に酔った父が寝室で眠りについたのを確認した私は、恐る恐る一階のリビングへと降りて姉の姿を探す。



「お姉ちゃん…」



暗くて視界の悪いリビングの電気を私がつけようとした時、「穂乃香…ご飯食べた?」と掠れた姉の声が聞こえてきた。



「お姉ちゃん!大丈夫!?」



私は電気をつけることも忘れ、声のする方へと向かうと、姉らしき人影がむくりと床から起き上がるところだった。



「大丈夫だよ、それより穂乃香お腹空いたでしょ?そっち座って」



姉はそう言うと、一旦リビングを出て行ったかと思うと、すぐに戻って来てからパチンとリビングの明かりをつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る