第13話

少年が眠りにつくと、鴉達の歌声はどんどん大きくなり、



それに合わせてチェロの音も大きくなっていく。



恐れ、憎しみ、妬みの不浄な歌は闇の何処までも響き渡り、やがてチェロだけではなく、ハープやヴィオラなど、数々の楽器を携えた"演奏者"達が集まってくる。



演奏者達は皆、正装した骸骨で、少年を囲うようにして回り続ける鴉達の更に外側を囲い、演奏を始めた。



そして最後にすやすやと眠る少年を包む黒いベールが完全に少年を覆い尽くした次の瞬間、



暗闇の中からほんのり温かな光を纏った、実にみすぼらしい少年が満月の隣に浮かび上がるようにしつ現れた。



『満月……』



満月の名を呼び、下から満月を見上げるその少年は、つい先程眠りについたばかりの少年と瓜二つだった。



あんず



汚らしい服を来て、べっとりとした真っ黒な髪の少年の肩を満月はそっと掴み、その額に唇を落とした。



すると少年の纏った光が強く、大きくなり、気が付くとみすぼらしい少年が金髪の美しい青年へと変貌を遂げた。



『満月……君はまた、僕に愛を背負わせるんだね』



スラリと背が高く、輝く金髪にブルーの美しい瞳をした青年がその瞳から煌めく涙を流す。



「…背負わせてるんじゃない、お前自身が"愛"の化身なんだ。愛が命を生む」



『君は僕をかい被ってる。僕は万物を愛している訳じゃない、ただ…僕が息をすると、そこから必然的に命が生まれてしまうだけ。僕が愛しているのは兄さん達だけだから』



そう言う杏の瞳から流れ落ちた涙は、杏の肌から離れたその瞬間、パッと花になり、そして次に離れた雫は白く小さな馬のような動物が生まれた。



白い小さな馬は、マスコットキーホルダーのようなサイズ感で、杏と同じように体にふんわりと温かい光を纏っていた。



生みの親である杏に擦り寄り、キュイキュイと鳴く。



そんな白い小さな馬を、杏は愛おしげに見つめ、指でそっと撫でる。



この青年の姿から"愛"を感じ取れない存在などいないだろう。



満月は、その涙で次々と動物や植物を生み出す杏を見つめながら眠りについたあの少年を思い出していた。



彼が眠りにつき、一番最初に描いたのは「愛と命を創造する」役割を持つ杏だった。



あんな風におどろおどろしい彼から、こんなにも美しく優しいものが創造できるなど、一体誰が予想できただろう。

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