第14話
満月が杏と次々と新しく産まれてくる動物達を微笑みながら眺めていると、
満月の足元の闇からふつふつと泡立つように巨大な蛇が這い出てきた。
【私の愛おしい月】
這い出てきた大蛇は地響きのような声を出しながら大きい体で満月の体に巻き付く。
「オロチ…また初めからだ」
瘴気を発するオロチの体に満月は体を預け、ぐったりと頭をもたれかからせる。
オロチの発する瘴気に、杏の生み出した動物達は震え、オロチを遠ざけるように闇の奥へと逃げて行ったが、満月はオロチの瘴気の影響を唯一受けず、
オロチに甘えるように、美しい指で大きなオロチの体をなぞる。
ぐったりとする満月をオロチはその血のように赤い瞳を愛おしそうに細め、見つめる。
【こうしてお前に会えるなら、私は世界の終わりも悪くないと思っている】
オロチの甘い声に、満月はふっと笑みを零す。
「貴方には敵わないな」
【適わないのは私の方だ。お前はいつも美しい】
「はぁ…僕が美しいのは当たり前だ。外見だけか?」
そう試すような視線をオロチに投げかけると、オロチは赤い目を一瞬見開いたが、すぐに口を開く。
【いいや、お前は心までも美しい。こうして世界の成り立ちに悩み、心を砕くお前の優しさが私は愛おしい】
愛を囁くオロチに、満月は満足気に微笑み、胸を張った。
「全て母さんの為だ!僕は絶対に
端正な青年の姿で無邪気にそう微笑む満月に、オロチは地響きのような声でグラグラと笑い声を上げる。
【あぁ、私の愛おしい月。その無謀にも真っ直ぐなところも美しい。母を追うのに疲れたら私のところに来るといい…私はいつでもお前を受け入れよう】
そうオロチが赤い瞳を細めると、次の瞬間、それまで真っ暗だった空間が一気に星屑の漂う宇宙へと変化した。
【始まってしまった】
オロチは広大な宇宙をぐるりと見渡すと、名残惜しそうに満月を見つめ、ため息をついた。
「また、会いに行きます。僕は今回、人探しを頼まれたから」
【そうか。ならお前の行く先には近付かないでおこう。私の災いがお前の探し人を遠ざけぬように】
「ありがとう、終わったら必ず会いに行きます」
満月の言葉に、オロチはするりと満月から体を離し、最後に【待っている】とだけ言って、その大きな体を黒い霧に変え、消えていった。
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