第11話
【かなしい…かなしいよ…僕はどうして壊してしまうのだろう、どうして何もこの目で見ることができないんだろう】
「…………………」
【あの子に会いたい……もう一度…会って話したい…触れたい…】
満月の頬に触れながら少年は涙を流すように空洞の瞳からドロドロと闇を溢れさせる。
しかし、美しい満月を犯すことは出来ず、少年から溢れ出た闇は満月を避けるようにして流れ落ちていく。
「………あなたは本当に可哀想な人だ。僕にあなたを救うことは出来ません。しかし、あなたの悲しみを和らげることは出来ます」
【……満月…】
慈愛に満ちた微笑みを浮かべる満月の膝に縋るように少年が座り込む。
そして満月はそのまま正面から少年を抱きしめると「さあさ、お眠りください…どうかお眠りください」と少年の耳元で囁いた。
満月の言葉に頷いた少年は、ゆっくりと満月から離れ、闇の中に転がる頭部の無い鴉達に向かって【唱え】と抑揚のない声を出した。
するとさっきまで死んだように転がっていた鴉達がガタガタとぎこちない動きで起き上がると、醜い声で一斉に歌い出した。
頭部の無い鴉達は少年を取り囲み、周りをぐるぐると周りながら、下品で不浄な言葉をチェロの音にのせて歌っている。
歌声の醜さと、その歌詞のおぞましさに満月は密かに金色の瞳を細める。
【僕はどうしてこんなにも醜いんだろう……君のように美しければ、僕は独りぼっちではなかったのかな?】
「………私はあなたが醜いなどと思ったことはありませんよ」
【嘘だよ、僕は醜い。だからきっと美しいものには近付けないんだ】
「しかし、本当に醜いものが、美しい世界を……僕を創造することが出来るでしょうか?」
満月の言葉に少年は空洞の瞳を見開き、満月を見つめる。
しかし、すぐに目を逸らし、その両目を覆った。
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