第10話
弾け飛び、空洞になった青年の瞳からは一気にドロドロとした暗闇が溢れ出す。
『そうだ…僕は闇だった』
「………………」
ブツブツと独り言を言いながら空洞の目から闇を溢れさせる青年を、満月は悲哀に満ちた表情で見守っていた。
青年の目から溢れる余りにもおどろおどろしい闇が、満月には青年の涙の様に見えた。
そうして溢れだしてきた闇はやがて青年をも飲み込んだかと思うと、次の瞬間、幼い少年と共に頭部の無い鴉達を多数吐き出した。
闇から吐き出された少年は、真っ白な肌に全ての光を吸収する程のべっとりとした黒髪で、空洞の瞳をしていた。
「おかえりなさいませ」
満月は少年の姿を見て、一切顔色を変えず、ただ声音を極限まで柔らかく、そして小さくして少年の前へと跪いた。
自分の前で跪く満月に、少年は意味のわからない下品で不浄な言葉を吐き続けながら、しばらくジッと真っ暗な空洞の瞳で美しいを満月を見つめた。
【…………まぶしい…】
そして次に少年が発した、おぞましい声に共鳴するかのように周囲を覆う闇が震えた。
もはや少年の生み出した闇でさえもが、この少年を恐れている―――
満月にはそんな風に見えた。
満月は以前からこの少年を気の毒に思っていた。
世界を創造する力を持っているのに、自分の創り出した世界に、何故かこの少年自身が介入することはできないのだ。
自分で美しい世界を創り出したとしても、少年自身がその美しい世界を見ることができない。
少年の苦しみは、正にそこにあった。
醜い闇を生み出し、ドロドロとした暗闇に包まれていく少年は、不浄な言葉を吐き続けながらヨタヨタと満月へと歩み寄り、
その美しい顔を、泥のようにまとわりつく闇に塗れた小さな手で包んだ。
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