第7話
「え…」
青年の顔を見て、私は思わず固まってしまった。
それは青年の容姿に驚いたのではなく、青年が顔をぐちゃぐちゃにして涙を流していたからだった。
「え…あ…、大丈夫…?」
私は戸惑いながらも青年へと声を掛けるが、青年は嗚咽を漏らしながら首を左右にふった。
青年の涙は頬を滑り、顎先へと流れるが、青年の肌を離れた途端、虚空へと消えた。
「………どうして…どうして泣いてるの?」
『やっと会えたのに、ごめんね』
「どうして貴方が謝るの?」
『僕が目を覚ましてしまったから…僕には何もないんだ…』
青年の言葉を私は理解出来なかったが、さっきまであったはずの広大な海も、星屑のように煌めく砂浜も、青い空も消え失せた景色を見て、
無意識に"これが世界の全てか"となにか腑に落ちた気がした。
そして、この空虚な世界に取り残されるであろう、青年をもう一度見ると、悲しさと哀れみと共に愛しさが溢れてきた。
「泣かないで、またいつか一緒に海を見に来よう?」
『……僕達に何故またいつか"があると思うの?』
「え…だって…」
青年に問われ、私は確かになんでだろう?と首を傾げた。
『ここには僕しかいない。空も海も街も命も感情もない。どうして…どうして僕はこんなにも独りなの?どうして僕は自分で作り出した君達ですら手に入れることが赦されないんだろう?僕は…僕はどうして…』
「…………………」
青年の悲痛な想いに、私は思わず青年の頬へと手を伸ばした。
が、伸ばした手で青年の涙を拭おうとしたにも関わらず、そもそも自分の腕が上がらないことに気が付き、自分の体を見ると、肩から先が既に消失していた。
「あ…」
消えた腕を見て、私は純粋に(消えたんだ)としか思わなかった。
そして青年の泣き顔を下から眺めながら一瞬、どうしたものかと考え、腹筋に力を入れて上半身を立てると、青年の震える唇にそっと自分の唇を押し付けた。
こうして青年が私の息苦しさを抜き取ってくれた様に、私も青年の悲しみを抜き取ってあげたかった。
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