第6話

私が思わず青年のはっきりと見えない陰った顔を見つめていると、青年は長い指を私の頬に滑らせながら笑った。



『君のほっぺ柔らかいし、こんなに温かいんだね』



「うん、生きてるからね」



『生きてるって凄いね!』



「ふふふ、そうだね」



青年と私は、その後も2人で砂浜を歩きながら、他愛のない話をした。



青年は時折、不思議なことを言っていたが、私は特に不審には思わなかった。



青年の言葉は全て、子供の頃に一度は私自身も疑問に思ったことや、思っていても誰にも聞けずにいたことばかりで、



青年の言葉を聞けば聞くほど、彼の純粋さを感じた。



しかし、そうしている内に空は完全に真っ黒になり、私の呼吸もしだいに浅くなっていった。



「……ごめん、もう歩けない…」



『うん…そうだよね』



私の声に、青年は頷くと、私をお姫様抱っこの姿勢で持ち上げた。



「なんか…苦しい…」



『ごめんね、今楽にしてあげるから』



青年は私を抱えてしばらく歩くと、真っ黒になった砂浜に私を下ろし、私の上半身だけを抱くようにして座った。



『……目を閉じて。僕が良いって言うまで僕を見ないで』



「分かった」



青年の言葉に従い、私はゆっくりと目を閉じた。



すると、すぐに私の唇に冷たい何かが重なり、唇の隙間から私の吐く息を吸い取っていった。



唇から冷たい感触が離れていき、『もう良いよ』という青年の言葉に目を開くと、さっきまでの息苦しさが全くなくなっていた。



『大丈夫?』



「うん、もう苦しくない。ありがとう」



『ふふ、良かった』



「……でも体に力が入らないや…私、もう消えちゃうのかも…」



そう笑う私に、青年は初めて沈黙した。



そうして私がどうしたのかと青年の顔を覗きこんだ時、その時初めて鮮明に青年の顔を見た。

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