第4話
『どうかしたの?』
勝手に1人で落ち込み始めた私に、青年が相変わらず陰った顔で顔を覗き込んできた。
『……終わるのが怖い?』
「いや…そういうんじゃ…」
『でも暗い顔してる』
「ちょっと嫌なこと思い出しちゃって」
『そうなの?僕のせいかな?』
「違うよ、ごめんね」
『なんで謝るの?君はなにも悪くないのに』
青年の言葉に私は返事が出来ず、沈黙のまま俯いた。
青年はそれから何も言わず、ただ私の傍に座り続けた。
そしてゴウンという聞いたことの無いような音が響き、暗闇に呑まれていた海の水平線が消え、端から海の水が下方へと零れ落ちていくのが見えた。
「なに…?」
『もう少しで演奏が終わるんだ…、時間がない』
「時間がないって…」
『僕、最後の瞬間まで君の傍に居ても良いかな?』
青年の言葉に、不安でいっぱいだった私の心が少し救われた気がした。
「うん、良いよ。私より先に消えないでね?」
まるで崖が崩れ落ちていくように急激に崩れ始めた海を前に、急に強く恐怖を感じ始めた私は、青年の服の裾を僅かに摘んだ。
青年は、そんな私を見て『ははは、大丈夫だよ。君を一人にはしないよ』と笑い、私の手を取った。
『あと、君が良ければなんだけど…少し2人で歩かない?』
「え?」
『怖い?でもこうして手を繋いでいれば大丈夫でしょ?…お願い』
懇願するような青年の声に、私は頷いた。
『やった!ありがとう。さあ、行こうか!』
青年は無邪気な声でそう言うと、私の手を引いて波打ち際へと速歩で向かっていく。
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