第3話

私は青年と共に砂浜に座り、温度を感じない潮風を浴びながら暗闇に飲み込まれつつある海を眺めていた。




「海がこんなになっちゃうなんてなー」



『海?これが海なの?』



青年は私よりも大きく、長い指をした手で星屑の混じった夜空のような色になった砂浜の砂を握り、サラサラと零した。



「え…海、初めて?」



『うん、海も人間も初めて』



("人間"って…言い方…この人もしかして日本人ではないのかな…)



『僕が出会った人間は君が初めて』



「あ……そっか…?」



『君と一緒に海が見れて良かった、君がいなかったら僕は海を海だと知ることも出来なかった』



「……………」



(変わった人だな…どんな生活送ったらそこまで世界に疎くなってしまうんだろう)




『そういえば、君はどうしてここに?』



「ああ…いや、別に…特に理由は…」



『そうなの?じゃあ、この後の予定は?』



「えっ、この後って言われても…もう暗闇があんな近くに来てるのに…」




まるで過去にあったことを繰り返しているような事態に、私は思わず顔を顰めた。



人生で初めて付き合った彼も、海でこんな風に私に声を掛けてきた。



今思えば、あの日ビーチには私よりも可愛い女の子が沢山いて、その子達でなく私にあえて声をかけたのは、



私に一目惚れしたのでもなんでもなくて、「コイツなら断らないだろう」と思われたからなのだろう。



なぜなら彼はあの時には既に妻子がある身だったのだから。



そう自覚してしまうと、今更ながら自分の価値がどれだけ低かったのかと思い知らされる。

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