第9話

高校生活にも慣れ始めた頃、休日に石田がクズと共に家へとやって来た。



「あ、石田くん久しぶり!」



「久しぶり、元気だった?」



ニコニコと変わらぬ微笑みを浮かべる石田。



なんでも今日はクズがカスに用事があるんだとか。



「うん、元気だったよ石田くんは高校どう?」



石田が私の家のリビングに入るのは卒業してから初めてだ。



「なんかずっと試験期間みたいに皆勉強してる」



「えー…流石進学校だね…部活とかは?」



「1年は強制で、2年からは自由。3年からは禁止みたい」



「なるほど…で、石田くんは部活どうするの?」



「僕は料理同好会に入ろうかなって」



「おお!料理!好きですねー」



「志帆ちゃんは?」



「あー…」



石田の問に私はキッチンで何やら片付けをしながらボソボソと話しているカスとクズの方を確認した後に石田の耳に口を寄せる。



「カスにもまだ言ってないんだけど、演劇部に入ろうかなと思ってて…」



「へぇ!演劇に興味あったんだ!」



「あー…いや…演劇にというか…将来声を使った仕事したいなぁ…って思ってさ…」



「声の仕事…声優?」



「うん…無謀だろうけど」



私が痒くもない頬をポリポリと搔くと、石田は「やりたいことはやった方がいいよ!僕は応援する!」と微笑んでくれた。



馬鹿にされるのが怖くて誰にも言えずにいた夢。



石田はそんな私の夢を認め、背中を押してくれた最初の人だった。

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