第5話
そして翌日から、私は自転車通学ではなく、カスにお姫様抱っこで通学することになった。
お姫様抱っこと言えば聞こえは良いが、実際はその状態でカスが猛スピードで爆走するので、私は失神している。
とんでもない瞬発力だ、
電車なんかより数倍速い。
し、危険だと思った。
学校に着くと、カスは何食わぬ顔で一緒に教室へと入ってくる。
「え…どこまで付いてくる気なの…」
私が不安そうにしていると、向かいから親友の芳江が駆け寄ってきた。
「あ!しほちゃん!おはよう!」
そうにこやかに微笑む芳江に、私も笑顔で答えようとした時、カスが私の前に立ち塞がり、芳江の頭を片手で鷲掴みにした。
「あ!くそ…!カス離せ!」
頭を掴まれた芳江はジタバタと抵抗するが、カスは微動だにしない。
どうやらカスと芳江は母の時のように既に面識があるようだった。
「なんでいつもいつも私からしほちゃんを遠ざけんのよ!ボディガードなのは分かるけど、友達なんだから良いでしょうが…!」
『……風呂に入ってない。衛生的でない人間は危険だ、遠ざける』
「!?芳江!またお風呂入ってないの!?なんで!?学校の日は入りなって言ったじゃん!」
「……だってめんどくさいんだもん…それに、そんなに汚れてないし…」
『汚れてる。髪が脂ぎってる』
「うぇ…それはお風呂入ろうよ…」
『風呂に入るまで接近禁止』
「えーーー!」
(凄い過保護だな)
そんなこんなで芳江を回避しつつ、教室に入り、自分の席に座ると、なんとカスが右隣に座ったのだ。
「え、カス…そこは人の席だから座っちゃダメだよ、もう帰って大丈夫だら」
『いや、ここは俺の席。シークレットサービスは離れちゃだめだから』
「うそぉ…」
私が顔を歪めながら疑念の眼差しをカスへ向けていると、後ろから「おはよう」と声を掛けられた。
振り返ると、そこにはクラスメイトの石田が立っていた。
石田とは隣の席で、黒目がくりくりとした子犬の様な男の子だ。
(あ、石田くんはいつも通りだ…)
と、私が内心ホッとした次の瞬間、石田の後ろからにゅっと真っ白な顔で、つぶらな瞳の白い巨漢が顔を覗かせた。
「えええぇええーーー!一番いつも通りじゃねぇーーー!」
思わず私が石田に向かって叫ぶと、石田の後ろに控えていた白い巨漢が前へと出てきた。
[志帆さん、どうか落ち着いて。僕達は恩人を守る為に少しだけ世界の価値観をイジっているけど、どうか合わせて欲しい]
そう言って私の顔を覗き込む石田のシークレットサービスの声に、私は固まった。
「もしかしてCV宮野〇守?」
『そこ?』
「重要な問題だよ」
[……確かに参考にはしてる]
「すごい…!一度聞けば出せるようになるの?」
[まあ…、多少は]
「すごい!歌も歌える?」
「歌えるよ!クズの歌、すごい綺麗なんだ!」
私の質問に答えたのはさっきまでニコニコと微笑みながら横に立っていた石田だった。
「いやクズってw名前酷くない?」
「カスだって酷いでしょw」
石田と私が顔を見合せ、お互いのネーミングセンスにクスクスと笑いあっていると、その頭上で2人のシークレットサービス達がグッと親指を突き立てていたのだった。
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