第7話

恋の無邪気な微笑みに、朱殷は恋と出会って初めてドキリと胸が高鳴った。




朱殷に心臓は無い為、おそらく反応したのは"魂"と呼ばれる部分なのだろう。




(恋さんてこんな顔できるんだ)




朱殷の今まで見てきた恋は、NO.1ホストであり、数多の女性を魅了する恋か、自分に異常な執着と変態的な愛情をぶつけてくる恋のどちらかだった。




こんな風に想いをぶつけてくるのではなく、朱殷の避けていた暗い過去を察し、寄り添ってくれた恋に、朱殷は心から感謝した。




(これがNO.1の実力か…)




「静かなところだし、家も傷んでないし、良い場所だよ。庭も広いし、よく陽の光も入るし。2人で暮らすには広いけど、どうかな?」




「え……、ここに住むんですか…?」




戸惑う朱殷に、恋は朱殷の顔を覗き込む。




「嫌?」




「むぅ……」




「大丈夫、別に僕も必ずしもここに住むために買った訳じゃないから。ただ、朱殷さんの大切な家が他人の物になっちゃうのが嫌だっただけなんだ」




「ありがとうございます…実はずっと気になってはいたんですけど…私の貯金じゃ一戸建てなんて買えないですし…でもいざ一人でここに来る勇気もなくて…なんて言ったら良いんだろ…ここは私にとって、大切で忘れられない場所でもあり、苦しくてむしろ忘れてしまいたい場所でもあって……」




ぽつりぽつりと吐き出すように話し始めた朱殷は、話している内にボロボロと刺繍された瞳から涙が零れだした。

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