第6話

「ここって…」




カーテンも外された大きな窓からは綺麗に手入れされた庭が見え、ひらひらと蝶が飛んでいる姿が見えた。




「朱殷さんのお家」




陽の光に照らされた恋の顔は朱殷に対しての慈しみに溢れており、そんな恋に優しく背中を撫でられる度、朱殷は不安定な自分の心までゆっくりと包まれていく様な気がした。




朱殷の記憶にあるこの家は、カーテンが閉め切られ、暗く、母のすすり泣く声の響くものだったが、




目の前に広がる空間は、明るく温かいものだった。




まるで古い思い出が洗い流され、浄化された様な澄んだ空気に、朱殷は胸に詰まった重い感情も不思議とゆっくりと解きほぐされていった。




「牡丹と一緒に掃除したんだ。庭はね、僕が雑草をむしって整えたんだ。花壇の跡があったから、チューリップとか植えようか?球根植物だから植えたら毎年生えてくるから楽しいよ」




「花壇…牡丹さんも手伝ってくれたんですね」




「うん、暇そうだったから。楽しそうだったよ」




「ふふふ、ありがとうございます。この家がこんなに明るかったなんて知りませんでした」




朱殷の強ばった体が自分の腕の中でゆっくりと緩んでいくのを感じ、恋はそれが嬉しくて思わず顔を綻ばせてしまった。




いつも微笑む時はより効果的な場面で、より自分が朱殷にとってカッコ良く見える様に表情管理をしているのだが、この時はまるで子供のように自然と顔が緩んでしまった。

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