第5話

朱殷を抱いた恋は、なかなか顔を上げようとしない朱殷の後頭部をそっと撫で、何も言わなかった。




そして朱殷が恋の胸に顔を押し付けている間に、恋は辿り着いた一軒家へと入る。




人の気配もしなければ、特に匂いがある訳でもなく、家の中はしんと静まりかえっていた。




リビングに入ると大きく切り抜かれた窓があり、太陽の光がさんさんと降り注いでいる。




温かい陽の光の下に恋が朱殷を抱いたままの状態でゆっくりと白いフローリングに腰をおろす。



「朱殷さん」



恋が朱殷を手放そうとすると、朱殷はすかさず恋の服にギュッとしがみついて離れない。




「朱殷さん、顔上げて」




「……嫌です」




「どうして?」




「ちょっといま…それどころじゃなくて…」




「うん、知ってる。だけどお願い、少しだけだから」




恋の声に渋々顔を上げる朱殷。




その朱殷の目に映ったのは、白いフローリングと、温かみのあるアイボリーの壁が広がる空間に眩しいほどの陽の光が溢れていた。

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