第4話
「………………」
朱殷は、綿の詰まった胸に、複雑な想いを抱えながら、流れる景色を眺めていた。
しかし、流れる景色の中に、かつてのあらゆる自分が様々な顔をして次々と通り過ぎて行くのが見えた気がして、朱殷は思わずパッと顔を背けた。
いま思い出してはいけない、
朱殷の中核にある魂がそう強く訴えていた。
父を亡くしてから歳を重ね、そして今は人間ですらなくなっているのにも関わらず、
生まれ育ち、その面影を残す風景を見ただけで当時の苦しみや悲しみ、そしてかけがえのない幸福な思い出―――
その全てが溢れ出し、あらゆる感情の波に飲み込まれ、ほんの数分前の自分に戻ることが出来なくなってしまうのではという不安で体が震えた。
シートベルトにしがみつき、これ以上精神を乱されぬよう、ギュッと目を閉じていると、しばらくして車が止まった。
「朱殷さん、ついたよ。おいで」
運転席側から降りた恋は、朱殷の座る助手席側へと回り、朱殷を抱き上げる。
恋に触れられて、朱殷はハッと我に返る。
そしていつものように熱い腕と胸に体を包まれた瞬間、何故か救われたような、さっきまで溢れ出していた重すぎる複雑な感情が半分ほど恋へと流れ出て、スっと心が軽くなったような感覚を覚えた。
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