第3話

「そう、今日受け取ってきたんだ。これから一緒に見に行こうか」




「見に行く?持って帰ってきたんじゃないんですか?」




キョトンとする朱殷を恋は微笑みながらそっと抱き上げた。




「ねぇ朱殷さん、持って帰ってこれる物なら、最初から届けて貰えばいいと思わない?」




「はい…私も最初はそう思いましたけど…」




「ふふ、そうだよね。だけど今回は僕でも持って帰ることが出来ないものだったんだ。さあ、行こう」




恋はそう言って朱殷を連れて家を出た。




恋の運転する車は恋のタワーマンションがある都心からどんどんと離れ、次第に下町の風景に変わっていく。




そして静かで寂しいような、しかし人の暮らしの気配がある穏やかな住宅街へと入っていく。




真新しい新築の戸建てもあれば、古く、人の気配も感じない家まである。




そして新しい家と古い家の間に不自然に存在する空き地を見て、朱殷は目を見開いた。




「ここって…」




朱殷は連れてこられたこの町をよく知っていた。




空っぽになった空き地はかつて公園で、朱殷が幼い時によく父と遊びに来ていた。




そう言えば、家を引き払う時には既にこの公園の遊具は錆びれ、遊ぶ子供の姿も見なくなっていたのを思い出した。




懐かしい風景には新しい変化が混ざりあっていて、朱殷は少し寂しいような気もしたが、その変化に救われている部分もあった。




父を想いながら、死に向かって歩いた道。




まさに朱殷は今、その道をもう一度辿っているのだ。

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