第2話



「朱殷さんただいまー♡」




ソファの上でぼんやりと茜のことを思い出していた朱殷は、帰宅した恋の声にピクリと耳を立てた。





「おかえりなさいー」




ソファから飛び降り、リビングの入口までボヨンボヨンと体をしならせて帰宅した恋を出迎えると、




恋は満面の笑みで買い物袋を朱殷に見せた。




「朱殷さんの好きなお菓子買って来たよ〜♡」




「わぁーい!ありがとうございます!」




ニコニコとしながら買い物袋をガラスのテーブルに置いた恋は、上着をソファに掛けて、袋の中身を一つずつ出し始めた。




「これがアクセサリー付きのお菓子でしょ〜」



「わあー!懐かしい!まだあるんですね!」



「うん、あったよ〜。でもコレ、本当にお菓子入ってるの?」



「入ってますよ、ガムが一個だけ。ま、メインは付属のアクセサリーですから!」




「なるほどね」



恋はウキウキと体を左右させる朱殷を眺めながら一度、お菓子の箱を耳の横で振ると、確かにシャカシャカと音がした。




「あとはこれだったかな?自分で作る系のお菓子って」



次に恋が袋から出したお菓子を見て、朱殷は「そうです!」と飛び上がった。




「コネコネコネるん!!今は紫じゃないんだ!」




「昔は紫だったの?」




「はい!混ぜると紫になるので、パッケージも紫でした!」




「遊べるお菓子いっぱいあったけど、朱殷さんは子供の頃からこーゆーお菓子が好きだったの?」




「はい、オマケ付きのお菓子とか好きでした!こーゆー作る系は父が好きで…」




ウキウキと体を揺らしながら喋っていた朱殷が、

突然言葉を詰まらせたので、恋は朱殷の顔を覗き込んだ。




「朱殷さん?」



「あ、いえ…なんでもないです」



縫い付けられた漆黒の瞳が、恋ではなくどこか遠くを見ているようだった。




朱殷は元々、自分のことを語ろうとしない。




家族のことに至ってはことさら口を閉ざしていた。




恋も理由は分かっていた。




朱殷のストーカーを始めた初期に家族構成や家庭環境は全て調べ尽くしていたからだ。




「朱殷さん、今日僕はなにしに出掛けるって言ったっけ?」




「む?買い物と、注文していた物の受け取り…」




ぶにゅりと首を捻り、恋を漆黒の瞳で見つめる朱殷に、恋はふっと目を細めた。

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