第6話

「それに、そのポケットの中の物…そんな物、何処で見つけたの?返してきた方が良いよ」



出刃包丁だけで大きく動揺している俺に、今度はたれ目の生徒が視線はそのままの状態で、ゆっくりとこちらへと近付いてくる。



「おい、来るな!コレは預かったんだ!」



「誰に?」



「誰って…!」



たれ目の生徒に勢いのまま言い返そうとしたその時、俺は初めて"影"というのが実はなんであるのか理解していなかったことを思い出した。



「ねぇ、君はここに何の用で来たの?」



「なっ、何って…!」



「取り戻しに来たんじゃないの?そのポケットに入ってる片割れを」



「ち、ちがっ!俺はっ!」


見透かしたようなたれ目の生徒の言葉に、俺はしどろもどろになりながらも後ずさった。



この状況をどう抜け出せば良いのか分からなかった俺は、再びポケットの中の石のような物をギュッと握り、目を固く閉じた。



すると、耳の後ろから聞こえてきたのは音が割れるほど大きな笑い声だった。



「は……?」



その笑い声で、すっかり頭が空っぽになった俺は、手に持っていた出刃包丁を地面へと落としてしまった。



「あーあ、やっぱそうか。お前、その左手で握り締めてるヤツ、早くソイツに渡せ」



そして呆れた様子でこちらに視線を向けてくる

つり目の言葉に俺はすぐに従った。



一刻も早く、この耳の後ろから聞こえてくるけたたましく、恐ろしい笑い声から解放されたかったのだ。



「ありがとう」



たれ目の生徒は、俺の手の中から俺に"ソレ"が一瞬も見えないよう、素早く自分の手の中へと包み、ブレザーのポケットへと入れた。



"ソレ"を手放した瞬間、俺は突然頭から冷水を被せられた様な衝撃を受け、一瞬立ちくらみがしたが、額を押さえながら再び顔を上げた時、



その時初めて自分が見知らぬ土地へと来ていたことに気が付いた。



「……なんだここ…」



キョトンと立ち尽くす俺に、つり目の生徒がコツコツと革靴を鳴らして近付き、その温かい手で俺の耳の後ろをスっとなぞった。



「おわぁああ!?な、何すんだよ!?」



俺が全身に走った鳥肌を落ち着かせようと、自分で自分の腕を擦りながら後ろへと退くと、つり目の生徒はニカッと微笑んだ。



「で、お前何しに来たんだよ?」



「あ……」



「もしかして覚えてない?」



つり目の生徒の問に、俺が答えられずにいると、たれ目の生徒が心配そうに眉を寄せる。



「いや…覚え、てる…けど…」



途切れ途切れになりながら、ことの成行を思い出そうとした瞬間、一瞬、恐ろしい巨大な金色と黒の目が脳をよぎった。



「!!」

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