第3話
『どうすれば良いか分かるか?』
「………分かりません」
耳の後ろから聞こえてくる影の問に、俺はゆっくりと首を左右に振る。
どうすればとは、なんの話なのか。
しかし影は、左右に首を振る俺をぐるりとうねるように見た後、なぜか笑った。
『なら教えよう。お前のこれから行く先にある"未来"を。お前は目的の場所へと辿り着き、その"家"の中へ入る。大丈夫、鍵など閉まっていない。しかしアレには家族がいる、そう、家族だ。アレの妻と、幼い子供。だが安心しろ、この2人はお前がそこへ辿り着いた頃にはタイミング良く出掛けている。本当だ。だからお前はそのまま中へと忍び込み、家の中からもう一つの"ソレ"を持ち出してくるんだ。簡単だろう?さあ、イメージしてごらん』
影は不気味に微笑みながら冷たい体で俺の体を包み込む。
冷水に浸されたように凍える俺を、影はただ『大丈夫、大丈夫』と言って宥めるようにして髪を撫でる。
『さあ、最初からだ。私について来なさい』
そして最後に影がそう言って俺の額を撫でると、とある立派な和風の御屋敷が脳内にイメージとして流れてきた。
『……良い子だ。そう、お前はここへ辿り着き、そのまま中へと入り込む。ただっ広いこの屋敷には妻と幼い娘の2人しかいない。でも大丈夫だ、お前がここへと訪れる時、この2人はいない。そう、出掛けているからだ』
影が俺の脳内で映像を操作しながら、俺は影の声に導かれるままに進んで行く。
大丈夫、この家に人は居ないんだ。
人気がなく、しんと静まり返った家の中をゆっくりと歩きながら、微かな焦燥と罪悪感に揺らぎながら歩いていると、
ふと、若い女が俺の前を横切った。
(見つかった!)
俺が女に動揺し、数歩後ずさってしまうと、すぐに女が不思議な顔をしてこちらへと戻って来てしまった。
「どなたですか?」
女に真正面からそう問いかけられた俺は、その状況に耐えきれず、首を振って影へと叫んだ。
「聞いていたことと違う!居るじゃないか!」
『おっと、それは失礼』
影は慌てる俺を見て、また謎の笑みを浮かべた。
『じゃあ、こうしよう。私は家の中には誰も居ないと言ったが、実は2人は家の中に居て、お前と鉢合わせてしまう。しかし、その2人が居る限り、お前は目的の物を家から持ち出すことが出来ない。では、どうすれば良いか分かるか?』
「わからない…」
俺は、影の声を聞きながら先程イメージで見た女の顔を思い出しては、罪悪感に震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます