第12話

「わ、私は特にないですけど…」



はぁはぁと息を荒くし、いつ飛び付いて来てもおかしくない状態の恋が恐ろしくて、朱殷は体をぷるぷると震わせながら一度クッションの上から降り、恋から少し距離をとった。



しかし、それが良くなかった。



恋は自分から朱殷が離れたことを敏感に察知し、すぐに朱殷の首根っこを掴んで持ち上げた。



「う!うぅ!」


「ねぇ朱殷さん…今何処に行こうとしたの?」


(ひぃ、また怒ってる!)



メラメラと燃えるような瞳に反して、背筋が凍るような冷たい声に、朱殷の体は緊張で動けなくなってしまった。



(うぅ…ちょっとクッションから降りただけなのになんで…)



「別にどこにも…!ゆ、床の方が座り心地が良いと思って…!」


「ふぅ〜ん?だったら僕側に降りれば良かったのに、どうしてわざわざ反対側に降りたの?」



(べっ、別にどっちでも良くない!?敏感過ぎる!この人敏感過ぎるよぉ…)



朱殷は泣きたい気持ちで仕方なく白状することにした。



(きっとこちらが隠そうとすればするほど逆効果なんだ)



朱殷は出来るだけ恋を怒らせないよう、恋に伝わるほどに意識的に体を震わせ、前足をもじもじと動かしながら喋り始めた。



「えっと…その〜…。いきなり抱き締められると、ビックリしてしまうので…。なんとなくさっきは避けようとしちゃいました…」



「どうして避けようとしたの?」



素直に白状しても冷たい声の恋に、朱殷の体が本当にぶるりと震えてしまう。



「えっと…人に抱き締められるとか慣れてなくて…その…心の準備が必要で…」



「慣れてない?………心の準備……?」



「?はい…いきなり抱き締められると緊張…というか…その、正直恋さんの胸が熱くて苦手…というか…」



「僕に抱き締められると緊張する…?って、それって…それって…」



(??????)



朱殷の言葉を繰り返すだけの恋に、朱殷は恐る恐るチラリと恋の顔を見上げると、再び息を荒くした恋がサンストーンの瞳を血走らせ、大きく見開きながら、朱殷を掴んでいない方の手で苦しそうに胸を押さえていた。

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