第10話

朱殷は浅い眠りの中で、自分の名前を必死に呼ぶ声を聞いていた。



「朱殷さん!朱殷さん…!どうして……」



そうして体を揺さぶられ、次の瞬間に体の一部を圧迫されるような感覚を覚える。



「これじゃ間に合わない…どうすれば……」


聞こえてくる声は終始震えていて、且つとても焦っているようだった。



(誰だろ…この人…)



朱殷が薄く目を開けようとするも、瞼が縫い止められてしまったかのように全く持ち上げることが出来ない。



(ま、いっか。夢だしな)



そうして朱殷が目を開けるのを諦めた次の瞬間、朱殷の体のどこかに突然、熱くて柔らかいものが押し当てられた。



「ぅあちぃ〜!!!!!」



あまりの熱さに驚いて目を覚ました朱殷は、現実に引き戻された時、丁度自分の体が宙を舞っている所だった。



驚きのあまり反射的に体が飛び上がってしまったのだろう。



「朱殷さん!?どうしたの!?」



朱殷の叫び声を聞きつけた恋がキッチンから熱い風と共に駆け付け、宙に浮いた朱殷を抱き留めた。



「危ない…どうしたの?」


「いや…あの、多分夢を見て…驚いて…」


「夢?」


「はい」


「夢に驚いてあんな高く飛ぶ???」



恋はサンストーンの瞳を驚いた様子でパチクリと瞬かせ、朱殷を見つめた。



「……飛んでましたね…」



朱殷はなんだか自分の寝相が悪いことを指摘されたようで恥ずかしくなり、体をもじもじとさせながらチラリと恋を見上げた。


「ぷっ、あっははは!なにそれ!それにしても飛びすぎ!ふふふ…怖い夢でも見た?」



恋に声を上げて笑われ、朱殷は恥ずかしさから「むむん…」と謎の鳴き声を漏らしながら表情筋など無いはずの布の額にギュッとシワを寄せた。



あんなに飛び上がるほど驚いたというのは覚えているのに、肝心な夢の内容は全く覚えていないのだ。

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