第9話

「この人はもう僕のものだ」


「はぁ…それは自白か?お前は自分が何をしたのか分かってるのか?」


「僕は好きな人を僕のものにしただけ」



恋は真顔でそう言いながら血の滴る自身の胸を撫でた。



すると胸に空いていた穴は消え、無傷同然の状態へと戻ってしまった。



「お前が朱殷を気に入っていたのは知ってる、でもだからってなぜこうした?彼女の人としての生を奪う必要が何処にあった?」



牡丹の言葉に、恋の瞳から一瞬狂気の光が消え、悲哀の色が浮かんだ。



その表情を見て、牡丹は再び深いため息をつく。



「恋…お前がその…昔のことでまだ苦しんでるのは知ってる。だけど、これはやり過ぎだ。他の女達はどこだ?」



「他の女達?何の話?」


「はぁ…お前が連れ込んでぬいぐるみにした女だよ、朱殷の前にウチで事務やってた長島も、お前の太客だった横山令嬢も行方不明ときた。いくらなんでもお前の行動はあからさま過ぎる。これ以上は俺もお前を庇い切れない」



赤い髪をぐしゃりと無造作に掻き上げ、ため息をつく牡丹に、恋は首を傾げた。



「……なにか勘違いしてるようだからハッキリ言うけど、僕は長島さんも横山嬢にも手を出してないし、行方も知らない。僕に必要なのは朱殷さんだけだから」



「お前じゃない…?」


恋の言葉に牡丹はサンストーンの瞳を大きく見開いた。



見開かれたその瞳は、薄いカーテンから漏れる太陽の柔らかい光に照らされ、薄い黄色と夕焼けの様な濃いオレンジ色がオーロラのように蠢き輝く。



「残念だけど違う。だけど恐らく事を起こしている人物は敢えて僕に近い人間を選んでる。こうやって牡丹が僕の所へ来たように、異変に気が付いた人が僕を疑うような状況を作ってる」



まるで他人事のように軽い口調で話す恋は、話しながらキッチンへと移動し、冷蔵庫から解凍しておいた肉の塊を取り出した。



そしてその肉をサイコロ状に切り分け、一部を除き、真空パックへと入れると再び冷凍庫へとしまった。

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