第5話
「あ、あの!しつこいようですが会社に連絡を…」
朱殷は体の中の綿をめちゃくちゃにされながらも、なんとか取り合って貰おうと朱殷は短い前足で自分の体の匂いを嗅ぎ続けている恋の髪をピッと引っ張った。
「会社になら連絡してあるよ」
「え、本当?」
「うん、本当♡」
恋は甘えた声で返事をしながら、尚も朱殷をキツく抱きしめ、熱い顔を朱殷の体に埋めている。
(え…なんて連絡したんだろ)
「なんて連絡したんですか?」
「ん〜?それはもちろん……」
朱殷の体からようやく顔を上げた恋が、興奮しきった妖艶な表情で唇を動かそうとした次の瞬間、ハキハキとした男の声が被さって聞こえてきた。
「なにが"朱殷さんは僕と結婚するので寿退社とさせて頂きます"だ、昨日まで普通に働いていた人間が昨日の今日で突然寿退社なんて言い出す訳ないだろ」
(この声誰だろ)
朱殷は呑気にも一瞬、突然後方から聞こえてきた空気をピリつかせる声の主を考えたが、すぐにその声がとんでもないことを言っていたのを思い出すと飛び上がった。
「こ!寿退社!?え!?辞めちゃったの!?私、会社辞めちゃったんですか!?うそぉ!?」
「そっち?」
恋の腕の中でぼよんぼよんと体をバウンドさせながら騒ぐ朱殷に、後ろの人物がツッコミを入れる。
「チッ、……何しに来たの」
恋は突然現れた人物に対してあからさまに悪態を付く。
「お前が一番よく分かってるだろ」
朱殷を両手に抱く恋を、男は恋と同じサンストーンの瞳で見つめた。
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