第52話
「名前、君はなかなか呼んでくれないね」
『…習慣がないからよ』
「そっか」
『……………』
「バーベナ」
『?』
「君の名前」
『!?私には必要ないわ』
驚いた表情をしながら、オリヴィエの血だらけの手で頬を撫でられながら少女は短く断った。
「ははっ、そんなこと言わないで。俺と君だけの間だけて良いから……そう呼んでも良い?」
『………勝手に…して…』
戸惑いながらも少女は揺れる瞳でオリヴィエを見た。
深く突き刺さったナイフは、予想よりも大きく、傷口からはとめどなく血が流れ出しているせいで、オリヴィエの着ている服が体に張り付いている。
彼はもう長くない、
誰がどう見ても分かるほど、彼は衰弱していた。
度々少女に血を与えていたオリヴィエの体の状態はそもそも健康体ではなかった。
その上での今回の負傷は、間違いなく彼にとって致命傷となってしまった。
(そうよ、そもそもあと数回血を貰っていたら死んでたじゃない…それが少し早まっただけよ)
少女は心の中で自分に言い訳をしながら自分の膝の上で死にゆく男を見つめていた。
「バーベナ…」
『なに?』
オリヴィエは名前を呼んでも、彼女が返事をするとは思っていなかったようで、彼女の返事を聞いた瞬間、思わずほっとしたような笑みを浮かべた。
『……なにがおかしいの?貴方が言い出したんでしょ…』
「いや、嬉しくて。ありがとう」
『でもどうせ私は忘れてしまうわ、貴方のことも、この名前も』
「それでも良い」
『……変な人』
「花の名前なんだ…」
『はな?』
「君と初めて会った時、君が闇に咲く白い花のように見えた」
『……………』
「綺麗だった、だから摘み取って俺だけのものにしたいと思ったんだ」
『だからそれは錯覚よ』
「違う」
『違くないわ、貴方は勘違いしてる』
「違うんだ。君には分からないかもしれないけど、俺は君といる時だけは意識がハッキリとしていた。俺は今まで君と"傀儡"として会話したことはないよ」
オリヴィエの発言には、一部彼の勘違いも含まれていたが、概ねその通りだった。
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