第51話

「!!」



オリヴィエは反射的に少女を自分の胸の中へ隠すように抱き込み、近付いてきた人影に半分背を向けたところで、脇腹に鋭い痛みが走った。



「うぅ!!」



『!?』



オリヴィエが攻撃されたことに気が付いた少女は、赤い目を光らせて即座に眷属を召喚し、反撃を命じる。



そして眷属のオオカミによって頭部を食いちぎられた人物の胴体がドサリと地面に倒れ、無惨にも食いちぎられた頭部がコロコロとオリヴィエの足元へと転がってきた。



悲惨な光景にオリヴィエは目を見開き、ボールのように転がってきた頭部を見て、更に衝撃を受ける。



「セリーヌ…!?」



オリヴィエを刺し、少女の眷属によって首を食いちぎられた人物とは、エリックの妹であるセリーヌだった。



「なぜ彼女がここに…?」



オリヴィエはあまりの衝撃に刺された腹部の痛みなど一時的に消し飛んでいた。



何故いま、彼女がこんなにもタイミングよくこんな場所にいたのか。



オリヴィエはまさかと思い、慌てて辺りを見渡すが、他に人の気配はない。



『待ち伏せていたのね』



(待ち伏せ?ありえない…俺達がここに辿り着いたのは全くの偶然だ。予測してここで待ち伏せるなんて普通の人間には不可能だ)



ドクドクと心臓が激しく鼓動し、その度に自分の腹部から熱い血液がドロドロと流れ出していくのを感じながらオリヴィエはとうとう地面へと倒れ込んだ。



『………貴方、どうして私を庇ったの?私は命令してないわ…。それに貴方やっぱり私の暗示が効いてないわね』



息を荒くし、肩で呼吸するオリヴィエの傍に寄り添い、少女は地面へと仰向けで横になったオリヴィエの頭を自分の冷たい膝にのせ、上から顔を覗き込んできた。



『貴方は本当に変な人だわ、私を庇ったりなんかして。どうして?同情?確かに私は私を守ってとは言ったけど、それは傀儡としての貴方に言ったのよ?…………理解出来ないわ』



戸惑いの表情を浮かべ、ジッと観察するように自分を見つめてくる少女に、オリヴィエは青ざめた顔で無理に微笑んだ。



「俺は君が好きだから、守りたかった」



『は?』



オリヴィエの言葉に赤い瞳を見開いた少女に、オリヴィエは思わず吹き出した。



「気付いてなかったの?」



『気付くもなにも、貴方が私に惹かれるのは、私が貴方達人間にそう作用するような造りになっているからよ?貴方には理解できないかもしれないけど、要は貴方の"気のせい"なの。私が消えればすぐ分かるはずだわ』



「オリヴィエ」



『は?』



相変わらずぐったりとしながらもオリヴィエは微笑んでいて、ジルと自分の血でドロドロになった手で少女の頬へと手を伸ばす。

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