第50話

『こっちよ、ついてきて』



少女は闇の中でオリヴィエの手をひき、歩き出した。



(なんだか息苦しいな…)



「うっ……」



オリヴィエの異変に気が付いた少女は、『もう少しだけ進ませて』と言って歩き続ける。



闇の中には"空気"というものがそもそも存在しない為、強い息苦しさを感じているのだった。



そもそも呼吸を必要としない少女にとっては、闇の中も外もあまり感覚としては変わらないが、オリヴィエに死なれては彼女も困る為、手を繋いでいたのだ。



闇の主である少女に触れていることで、オリヴィエも彼女の一部として闇に生かされていた。



『……ここが限界みたいね』



少女はチラチラとオリヴィエの顔色を伺いながら、ついに闇の外へと抜け出した。



するとそこは村を一望出来る丘へと来ていた。



夜の闇の中で数え切れないほどの松明の明かりがゾロゾロと列をなして教会へと向かって行くのが見える。



『あんなに沢山…』



少女はその光景を見下ろしながらガタガタと震えていた。



「これからどうする?」



オリヴィエの問に、少女は春の風にふんわりと薄いブロンドの髪をなびかせながら微笑む。



『逃げるわ。貴方も付いてきてくれるでしょう?』



「もちろん、俺は君の餌だからね」



そう言ってオリヴィエが微笑み、少女の冷たい頬に触れようとしたその瞬間、丘に聳える複数の木の中の一つからゆらりと人影が飛び出してくるのが見えた。



「!!」

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