第45話
オリヴィエは薄い意識の中で、微かに聞こえる鈴の音の様な、凛とした声に耳を済ませていた。
まるで澄んだ水の中にいる様な、目に映るもの全てがどこか他人事の様に感じる。
そうして状況を把握しないまま、ぼんやりとする意識とは裏腹に、激しく動き回る体に振り回されていると、
自分の手になにか熱い液体のようなものが滴っているのを感じた。
「…………………」
そうしてぼんやりとした頭で自分の手に滴るこの液体がなんなのか考えていると、唐突に至近距離から聞き覚えのある男の声がした。
「変わったのは、君の方だ…………」
「!?」
その声にオリヴィエは沈んでいた水の中から救いあげられたかのようにパッと意識を取り戻した。
そして、最初に目に飛び込んできたのは、大量の血を流した親友のジルが、蒼白の顔で悲しくこちらに向かって微笑んでいるところだった。
「!?ジル!?」
オリヴィエは驚いてパッと彼から身を離すと、ジルの腹部に深くナイフが突き刺さっているのを見た。
「お前…!何やって…!?」
目を見開いてジルを見つめるオリヴィエに、ジルは口から血を吐き出しながら微笑む。
そしてジルはよろよろと教会の床へと座りこみ、オリヴィエは彼を支えようと即座に駆け寄る。
「ジル!ジル!なんで…!」
「……オリ…ヴィエ…やっと…元の君に会えた…」
「喋るな!お前医者だろ!自分がどんな状況か分かってるだろうに!黙れ!」
必死にジルの傷口を手で押さえるオリヴィエに、ジルは掠れた声で笑った。
その笑い声は、こんな状況だと言うのにいつもくだらない話をしながら強い酒をジルに飲ませた時の酒にやけた声の様で、何故だか酷く懐かしい気持ちになった。
「オリヴィエ…聞いてくれ…、僕は、君を否定する気はなかったんだ…ただ、君はいつも感情的で衝動的だから…僕は心配で…」
「いい!分かってる!分かったから喋るな!すぐ叔父さんの所に運ぶから頼む!」
ヒューヒューと肩で息をするジルのぐったりとする体を支えながら、オリヴィエは懇願した。
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