第42話
しかし、少女の祈りに神の像が応えるはずもなく、教会内には重い沈黙が流れた。
「俺が君の餌になる」
『え?』
オリヴィエの声に振り向いた少女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「俺が君の餌になる。その代わりに、他の村人には手を出すな。隣町もダメだ、どこから噂が漏れるか分からないからな」
『なにを言ってるの?貴方一人で十分なはずないじゃない』
「そう?君が譲歩する気がないのなら、俺が今すぐにでもエクソシストにここを教えてもいいんだが?」
『やめて!そんな酷いことしないで!』
オリヴィエの脅しともとれる言葉に、少女は怒りで赤い瞳を光らせ、牙を剥き出しにして叫んだ。
少女はこの時既に冷静ではなかった。
よく考えてみれば、既に自分の牙によって汚されているオリヴィエは少女の支配下にあるはず。
何重もの暗示をかけ、意識を奪ってしまえばオリヴィエが教会の外へ出てしまったとしても、行動のコントロールは可能なはずだった。
彼女はこの時、"そんなこと"にも気が付けないほどパニックに陥っていたのだ。
そして、オリヴィエが幸運だったのは、彼女がオリヴィエの嘘を鵜呑みにしてしまう程に幼かったという点だった。
オリヴィエは最初から、少女の思っている様な「村人の為に自分が犠牲になる」ことが狙いではなかった。
実際のところ、彼は彼女を独占したいという、今までに感じたことのないくらい強い独占欲に駆られていた。
獲物を自分だけにするよう迫ったのも、そもそも自分以外が彼女に近付くことが許せなかったからだ。
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