第39話
オリヴィエがそんなことを考えながらぼんやりと闇の中を見つめていると、暗闇の中から白い少女の顔が上から自分を覗き込んできた。
『少し…貰い過ぎたかしら?』
「?」
『だって貴方、さっきから何も喋らなくなってしまったのだもの…』
そう言って冷たい手で、ついさっき自らが付けた噛み跡のあるオリヴィエの首筋をそっと撫でる少女に、オリヴィエは更に少女に対して愛しさが募っていくのを感じた。
捕食する側とされる側で意思疎通の叶う関係というのは、きっと人間と吸血鬼しかいないだろう。
人間は家畜の言葉を理解しないし、家畜もまた、人間の言葉を理解しない。
オリヴィエはこの時、初めて心から神は残酷だと思った。
今この目の前にいる美しい化け物と、自分達人間を創り出したのが、まさに神だとするなら、よりによってなぜ、彼女だけをこの様な化け物として創ったのか。
オリヴィエは切なさに思わずギュッと目を閉じた。
そんなオリヴィエに、少女は更に心配そうに声を掛けてくる。
夜目のきく彼女には、暗闇の中でもオリヴィエの動作や表情は変わらず鮮明に見えているのだ。
『やっぱり気分が悪いのね?ごめんなさい、でも安心して?食事をとって一日安静にしていれば回復するはずよ。だから明日はここに来なくて良いわ』
「君は…」
『私は一日くらい平気よ』
「誰も来ない?俺以外ここに」
『ええ、そう約束したもの。貴方以外、もう誰もここには来ないわ』
「そっか」
少女の言葉を聞いてオリヴィエは安心したように微笑むと、だんだんと意識が遠くなっていくのを感じ、次第に重くなっていく瞼をゆっくりと閉じた。
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