第35話

少女は、伸ばされたオリヴィエの手を拒むことなく受け入れ、くすくすと小さく笑った。



『貴方変わった人だわ。他の村人を襲わせない為に自分が犠牲になることもそうだけど、それ以上に私に恐怖心を微塵も抱いてないのね』



「………君は化け物にしては美し過ぎる」



『そうかしら?"化け物だから"美しいのかもしれないわよ?第一、貴方は私以外の化け物を見たことがあるの?』



「ないよ」



『ふふ、そうでしょう?化け物が醜いなんて、本当の化け物を知らない人間の妄想、勝手な勘違いでしかないわ。それに私、自分がどんな姿をしてるかなんて自分で分からないの』



「?なぜ?」



『何故かしら?きっと興味がないんだと思うわ。気にしたこともないし。ただ、人間が私を美しいと思うような外見なことだけは知ってる。狩りに役立っているならそれだけで十分でしょう?』



「変わってるね」



『あら、私からしたら貴方の方が変わってるわ』



「オリヴィエ」



『?なに?』



「俺の名前。オリヴィエっていうんだ、だからそう呼んで」



『分かったわ、オリヴィエ』



少女に名前を呼ばれた瞬間、オリヴィエはまさに胸の中にパァっと花が咲いたような温かい気持ちになった。



「うん、君の名前は?」



『私の名前?』



「君の名前も教えて。大丈夫、俺は君の餌だ、絶対に君を裏切れないし、教えてくれても問題なんてないだろう?」



そう言って少女の薄いブロンドの髪を指で撫でながら少女を見上げるオリヴィエに、少女は無感情に言い放った。



『ないわ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る