第34話

「だからか…」



『なに?』



ボソリと呟くオリヴィエに、少女は首を傾げるが、オリヴィエは「なんでもない」と首を横に振る。



『貴方があんなこと言わなければ、今頃私はお腹いっぱいになれているのに』



「言っただろ、君の存在に気付いてる人間がチラホラいるって。これ以上は危険だ」



『ふーん…でも実際、ここに乗り込んできたのは貴方一人だけ。貴方が考えるより、きっと皆他人の死なんて興味無いのよ』



「じゃあ、なんで君は使用人を殺したんだ?」



『使用人?なんの話し?』



「?…君があの使用人を殺したんじゃないのか?」



『?使用人?それは私の獲物の中に貴方の使用人がいたという話?そうだとしたらご馳走様』



少女の自然な返しに、オリヴィエは一瞬目を見開いた。



(やっぱり感覚が違う…)



この少女はごく普通に、例えば人間がパンをちぎって食べるかのような感覚で人間を殺しているのだと、オリヴィエは改めて思った。



その残酷な在り方と、それに反して美しい姿はまるで暗闇にふんわりと咲く一輪の花の様に見えた。



この美しい花が永遠に枯れなければ良いのに、



そしてこの美しい花を、出来ることなら永遠に傍で見守っていたい、



自分のこの手の中に、ずっとずっと閉じ込めて永遠に…永久に…



「俺のものに……」



オリヴィエは、少女の赤い瞳を見つめながらぼんやりと一人で呟き、無意識に伸ばした右手で冷たい少女の頬を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る