第29話

「せんせー!これ分かんない〜!」



「はいはい、ちょっと待ってて」



ガヤガヤと騒がしい教室の中で、オリヴィエは額を押さえながらも、今年の冬に受験を控えた上級生を優先に教えていた。



「先生、なんか今日変…大丈夫?」



「大丈夫だよ、少し頭が痛いだけだから」



「そう…?」



「うん、大丈夫。先生のことは良いから勉強に集中しよう。合格して、お父さんを喜ばせたいんだろ?」



「うん!」



「じゃあ先生は少し下級生の方へ行ってくるから、皆頑張ってね。分からない所はまた回ってくるから印を付けておいて」



『分かりました』



自分の指示に声を揃えて返事をする生徒達にオリヴィエは穏やかに微笑み、騒がしい下級生の方へと向かう。



「こらこら、静かに。受験生の勉強の邪魔になってしまうよ。さぁ、君達も勉強だよ、学期末のテストで良い点取れなかったら夏も補習に来て貰うからね?」



『ええ〜!?やだぁ〜!』



「そうだよね、じゃあ今覚えてしまおうか」



『はぁ〜い!』



そうしてさっきまで騒いでいた下級生達もやっと勉強に集中しだした頃、穏やかな沈黙の中で各自が持つ小さな黒板にチョークでコツコツと書き込む音を聞いている内に、オリヴィエの頭痛は次第に薄れていった。



しかし、そんな心地良い沈黙を破ったのは窓際に座るある生徒だった。



「先生!外に人が!」



「?」



生徒の声にオリヴィエが窓へと近付き、外に目をやると、そこには大きな鞄を持ったジルが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る