第6話

【ジルコン、こちらに来なさい】



「はい」



野獣は雨の降り続く大きな窓に張り付き、外を眺める娘を傍に引き寄せる。



ガリガリにやせ細った娘の腰は、野獣の片手で覆い隠せてしまう程細く、厚みがない。



蝋燭と暖炉に灯る火で温まった部屋で、二人はソファに寄り添って座った。



【体の具合いはどうだ】



「はい、伯爵様がよくしてくださるので随分よくなりました」



【目は…どうだ?】



「目は…いつもと変わりません。しかし、全く見えないという訳ではないので大丈夫です。障害物の有無などは分かりますので」



【……そうか】



「伯爵様、少し伺いたいことがございます」



【なんだ?】



灰色の瞳で真っ直ぐに見つめられた野獣はドキリとした。



娘は目が不自由な為、自分のこの醜悪な姿は見えていないはずだが、まさか自分のミスで勘づかれたのではないかと内心動揺していた。



「このお屋敷には伯爵様しか居られないのではありませんか?」



【なぜそれを?】



「私のような者に伯爵様はお食事を運んでくださいました。私は最初、伯爵様のご厚意だと思ったのですが、昨夜湯浴みを手伝って頂いた際に、来られた使用人の方から伯爵様と同じ匂いがいたしました」



(!?におい…だと!?)



野獣は唐突に鉄のハンマーで頭を殴られた様な衝撃を受けた。

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