第5話

しかし娘の瞳は野獣のシルエットをぼんやりと映しただけで、野獣の姿を詳細には映してはくれなかった。



だが娘は野獣のその声から、目の前の人物は自分が今すぐに逃げなくてはならない存在では無いことだけは理解し、強ばっていた身体中の力が抜け、床に膝をついた。



【!?どうした!?】



野獣は急に倒れ込んだ娘へと駆け寄り、肩を支えた。



「あ…いえ、大丈夫です…。そんなことより、助けてくださってありがとうございました。その…お名前を教えて頂けますか?」



娘の問に、野獣は一瞬口を開こうとしたが、すぐに閉じ、【答えるのはお前だ、なぜあの森にいた】と娘に問い返した。




野獣はぽつりぽつりと話出す娘を無言で抱き上げ、ベッドへと寝かせる。



娘も娘で野獣の行動に驚き、息を飲んだが、野獣に話の続きを催促された為、再び口を開く。



それから野獣は、娘が眠りにつくまで傍らでじっと娘の話に耳を傾け、娘は野獣の温かい体温を感じながら身の上を語り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る