第9話
朱殷が会社の外へと出た時、調度桃の父親が到着したところだった。
父親は、車を停め、スマホに送られてきていたメッセージに目を通す。
"作業は無事終了しました。明日、確認して頂ければ大丈夫です。お騒がせ致しました"
父親は、変に丁寧で簡潔な文章に一瞬首を傾げたが、送り主は確かに自分の部下からで間違いなかった。
しかしここまで来て進捗を確認しない訳にもいかず、父親が車から降りようとドアを開けた瞬間に、朱殷は入れ替わりで車の中へと入り込んだ。
朱殷は後部座席へと座り、父親が戻ってくるのを待った。
そして10分も経たずに戻ってきた父親は急いで車を走らせる。
「ただいま…!」
そうして再び家へと戻って来た父親は桃のもとへと向かった。
「ぱ…ぱ…?」
ベッドの上をぐちゃぐちゃにし、泣き過ぎて目を腫らした桃を見て、父親は胸が張り裂ける想いだった。
「パパ…、あの子いなくなっちゃったの…!パパから貰ったあの子!」
「あの子ってぬいぐるみ?」
「そう…!一緒に居たのに…!どこにもいないの…」
自分の体に縋り付いて泣きじゃくる桃を抱きしめ、父親は部下達がうわ言の様に呟いていた言葉を思い出していた。
『ぬいぐるみです…白い猫のぬいぐるみが…』
『あれは絶対に何度も納期に終われ、乗り越えてきた社畜の動きでした…信じられないかもしれませんが本当です…』
『急に呼び出してすみませんでした、でも見ての通り片付きましたので…お子さんの為にも帰ってください…俺達は…ここで、ね、ます…』
(いや、まさかな)
「…………桃、いなくなってしまったのは仕方ないさ。パパと一緒にまた代わりの子を買いに行こう?」
泣きじゃくる桃の頭を父親が優しく撫でると、桃は「パパと一緒…?本当に?」と顔を上げて泣きながら微笑んだ。
「ああ、ママも一緒に3人で」
「ママも!?皆で一緒に!?やったー!」
桃の父親は、桃の無邪気な笑顔につられて優しく微笑んだ。
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