第6話

「あっ!仁王立ちの人!?」



(なんかあの時より成長してる?気のせいかな…?)



「おい、なんだその覚え方は…失礼な。僕は満月!満月と書いて"ミツキ"だ。で、お前主人から離れてなにしてんだよ?」



サンタクロースの格好をした満月は大きな白い袋を担ぎ、改めて朱殷を見下ろした。



「あ…いや、お父さんを追いかけて…あ!お、お願いです!あの!お父さんを!お父さんを連れ戻したいんです!桃ちゃんの為に!お願いします!私、会社の場所も名前も分からなくて…!でも!お願いします!」



「?お父さん?桃ちゃんて誰だ?」



首を傾げる満月に、朱殷は縋り付き、「あの、あそこの家の!子供で!お父さんが会社に行っちゃって、泣いちゃって…!だから!」と必死に叫ぶ。



満月はそんな朱殷の様子を瞬きもせずジッと見つめると「分かった」と短く頷いた。



「本当ですか!」



「ああ、だが僕にも喜びを届けなくてはならない子供達が沢山いる。かと言って大勢の為に一人の孤独な子供を見捨てることも出来ない」



「そうですよね!」



「僕は完璧だ、僕にどうにか出来ないことなんて何一つない」



「うんうん!凄いです!お願いします!」



「良いだろう、では今から僕がお前をその父親の向かった会社に向かって投げる。お前は先回りして父親を会社に拘束しようとしている原因をクリアにしろ。そうすれば父親は家へと戻ることが出来る。簡単なことだ、出来るな?」



「はい!ありがとうございます!ってええ!?」



唐突な満月の言葉にあんぐりと朱殷は口を開ける。



「いや!クリアにするって、私が経験したことない業種だったらどうするんですか!」



「そんなことは些細な問題だ。仕事が失敗することと、子供が孤独に陥ることと、どっちの方が深刻で大きな損失を出すかなんて考えなくても分かるだろう?」



満月はそう言いながら無造作に朱殷の体を片手で掴み上げる。



「ああ!ちょっと待ってください!本当に投げる気ですか!?てゆーか本当に投げた先の会社であってるんですか!?間違ってたらどうするんですか!?」



掴み上げられた朱殷は、4本の短い足をジタバタと動かし、叫ぶが、その声に満月はふっと微笑み、そのまま大きく振りかぶって朱殷を空に向かって投げ飛ばした。



「完璧な僕が間違うはずがないだろう?」



物凄い勢いで朱殷を投げ飛ばした方向を眺め、満月は満足そうに微笑むと、再び大きな白い袋を担ぎ直すと、星の煌めきとなってその場から姿を消した。

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