第4話 失敗

「…なあ、こんな格好で人に化けれてんのか?

腕の装甲はまあいいとして…角は丸見えだし、

触覚なんか根本しか隠れて無いが…」


「平気よ…」


奪った荷物から服を変え、返り血はギムレーの使う水の魔術で除去した。角が隠せていない事への

不安が高まる…


「う~ん…当たって砕ける他無いか。」


「そろそろ、目的地のグラウッズよ。」


目的地の街は堀と堅牢な壁と扉に覆われている。

まるで古風な城の如き風貌だ…


「守りがすげぇな…治安悪いのか?」


「魔物が入らない為よ…まあ、結界が無いから

これでも普通の部類よ。」


「バケモンが居るのか…やだなぁ…」


街の門には少ないが人の列がある。どうやら検問を

行っているようだ。


「そういや、どうやって入るんだ?持ってきた金を払えばいいのか?ビザもパスポートも無いし…」


「基本は私が応対するから…あなたは黙ってて。」


「へーい…」


列に並ぶと、人の目線が自分に集まる…やはり角を隠さなかったのは悪手であったのだろうか…

人のひそひそと話す声がする。


[祖廻人そかいびとだ…]


[召使いまで連れてるぜ…大方、あの角が原因で

追放されたお貴族様に違ぇねぇぜ?ヒヒヒ…]


(案の定目立ってるじゃねぇか…まぁ、目の敵には

されてないみたいだな…)


とうとう自分達の番がやって来た…


「身分を証明するものは?」


「…私達はこの様な者でございます…」


ギムレーが手を見せる…彩火と契約した際に、

彼女が血を流した箇所から蛇のようにうねる紋様が浮かんでいる。


「主様も眼帯を外して頂けますか?」


「…?あ、あぁ…」


(え…何…?俺にもあんなヘンテコなタトゥーが?でもそんなもんで入れるわけが…)


「…!これは…通って良し…」


「感謝致します…」


「?????」


(なんで通れてしまったんだ?分からないが…

やっぱり、街中でも皆の目線が自分達に向くな…

しかし何だあのダサいタトゥーは…)


人目を避けるために宿を取り、そこで尋ねる。


「なんだったんだ…門番の時のあれ…猫被った様な

言葉遣いも気味が悪いぞ…?」


「…察しが悪いわね…あなたは身分の高い人間だと

思われてるのよ?」


「んん~!?おかしいだろ!?」


「私と貴方の間にある契約…これは特に古い物…

契約の利益に対して、代償が割に合わない契約よ…こんな物を用いる物好きなんて、懐古主義的な貴族くらいなのよ…」


「成程な〜…だからって通すのか…?検閲が

緩いんじゃねぇか?」


「まあ…それはそうだけど、あなたに関わって

面倒事を起こすのが怖いのよ。」


「そういうもんかぁ…?」


───────検問にて…


「オイ…さっきのはやっぱり、祖廻人だよな…!

しかも多分貴族の出だ…!俺大丈夫かな…!?」


「バカタレ!関わったら碌な目に合わないぞ?

神様のお気に入りにケチ付けたら何が起こるか

分からん…」


検問に人が来ない暇からか、門番は話に熱中する。


「お前達…雑談は楽しいか?」


だが、背後で上司が恐ろしい顔で佇んでいた。


「ヒィッ!?た、隊長!?副隊長まで…!?」


「全く…部下を怖がらせちゃいけませんよ?

ジーク。大熊も恐れる顔で迫ったら、誇張された

逸話が増えてしまいますよ?ははは。」


「…勤務中は隊長と呼べと言った筈だぞアーロン…まあ今はいい…祖廻人が来たと言ってたな?」


「そ、そうなんすよ!」


「…外見は?」


「角が一本生えた黒髪の若い男で…あぁ…右眼が

無くて、眼帯してて…病人みたいに細長くて…」


「そのくらいでいい…連れは居たのか?」


「えと…長い金髪で美人の侍女を連れてて…」


「…!間違い無い…そいつだ…!既にこんな所まで来ていたのか…!」


「え?あ…?」


「そいつは噂の天女とネフェリムだ…!アーロン、街を封鎖する様に通達しろ。見つけ次第…奴らを

捕らえるのだ…!天女は生かしておけ!」  


「了解です、隊長。」


──────街の宿…その一室。


「はぁ~このベッドいいね〜自由に寝返り出来るし柔らかいしはぁ~野宿がもう嫌になっちまうな…」


「……」


「どした?…あぁ…そういえばベッド一つしか

無いからな…ほら、使いな使いな。」


「違う…街の様子が変だわ…」


「?初めて来た街の様子なんか分かるのか?」


「衛兵達が何か探してる…しかも、既に門が

閉じられてる…昼過ぎに閉じるのは少し早いわ…」


「お偉いさんの子供が迷子にでもなったんじゃ

ねーの?」


寝っ転がって呑気に語る彩火。一本のギムレーは

嫌な予感が確信に変わる…


「やっぱり…もう既に私達の存在がバレてるわ…!衛兵達がここに押し寄せてるわ…!」


「え?もう!?」


「ネフェリムよ!聞こえるか!?」


突如として響く男の大声…


「天女を差し出して投降すれば、愚かな末路を

避けられると約束しよう…だが!逆らうならば…

神の敵として貴様を滅する…十秒やろう…

そのうちによく考える事だ!」


「…彩火…やはり…私を置いて─」


言い終える前にギムレーは担ぎ上げられる。


「こういうのは先手必勝だぜ…!」


窓ガラスを割り、屋根の上を走り始めた。


「ヤーだよぉ!!バアアアカァ!!ギャハハハ!」


「やはりな…お前達は住民を護衛しろ!アーロン、

お前は付いてこい…天女は殺すなよ?」


「もちろん…久しぶりに楽しめそうだ!」


続く

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